●2514●『河上肇集』【近代日本思想大系18】『世界教養全集2』『世界教養全集27』『笑う大天使(第1巻)』『笑う大天使(第2巻)』『空の食欲魔人』『海底ハウス―田中和栄物語』『青木雄二のナニワ資本論』『僕が最後に言い残したかったこと』『死刑事件弁護人―永山則夫とともに』

2009年10月2日 22:18:34

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ターンテーブルにレコードをのっけて、森田童子を聴いている。
「天皇ごっこ〜調律の帝国〜」では、森田童子の曲を2曲使った。
森田童子の声に何人ものお客さんが過敏な反応を示した。
終演後、その何人ものお客さんに声をかけられた。

「あれは、森田童子ですよね」
「なんていう曲ですか」
「どうして森田童子なんですか」
「見沢さんが森田童子を好きだったんですか」

劇中で使用した曲は、「ふるえているネ」と「G線上にひとり」
どうして森田童子を使用したのか、もちろん明確な理由や狙いはある。
あるけれども今言葉で説明することは、案外に大儀だ。いつか、書くこともあるかもしれない。
見沢さんが森田童子を好きだったのかどうか、それは知らない。

終演後の打ち上げの席で、
「森田童子って、右翼の連中は好きだったんですよ。でも左翼の人たちは嫌ってた」と、
当時を振り返りながら言われた。
右翼は情緒的で、左翼は論理的だ、という類分けらしい。
なるほど、と思いつつ、翌日の終演後の打ち上げで、左翼側で運動していた方に聞いてみた。
その方は笑いながら、

「そうかもしれませんね。
左翼の連中も内心は好きだったけどなんとなく言えない。そんな空気があったかも。
私は好きでした。こっそり聴いてました」

好きな音楽を好きだと言えないイデオロギーって、何なんだ?
と、そのあまりに子供の秘密基地的論理に微笑ましささえ覚えた。
ターンテーブルに黒くて大きなレコード盤をのせて、針を落とす。
パチパチと特有のノイズが走り、森田童子が歌い始める。
刻まれている溝を針が滑る。A面の1曲目から順に森田童子が歌う。
針がレコード盤の中心に向かって、歌う。

「見沢さんは森田童子を好きだったんですか」と何人もの人に聞かれた。

「さあ、どうですか。好きだったんじゃないんですか。そんな気がします」と、答えた。


『(前略)
これは幻聴か?
そう、森田童子の、あの儚げな声。
ピアニッシモはときにフォルテを凌いで心に強く響く。
「見沢知廉」をずっと追い続けてきた作者ならではの「母性のテーマ」が鮮やかに浮かび上がる。

「お前が脱獄し、帰ってくる夢を見た。風呂にいれ、食事をさせ、お前をどこに隠そうかと考えた。
でも隠したらまた罪が重くなる。千葉に送り返すべきか。目が覚めた。よかった。夢でよかった」

息子を待つ母の手紙、このあまりにリアルな日常感覚――不覚にも落涙である。
(ここはどうしても「森田童子」でなければならない。
あのテンポ、あのやるせなさがときに救いとなるのだ)
この場面、劇全体を貫く荒々しさのなか不意に訪れた静かなクライマックスとして秀逸、
これをエンディングとするやりかたもあったはず。
この方が見沢知廉の「罪と罰」がくっきり縁取られ、カタルシスだって期待できたのではないか。
(後略)』

劇作家・演出家の伊藤正福さんは、あの公演にこう書かれた。
そうだ、確かにそう感じたんだ。
「天皇ごっこ〜調律の帝国〜」の稽古中、何度も感じた。

(エンディングは、森田童子だ)

でも、出来上がった作品のエンディングは、そうならなかった。
ぼくが、そうしなかったからじゃない。
劇団再生という一つの意思が、森田童子のエンディングに違和を感じたのだと、今思う。

(立ち止まるな、進め。そのまま走り続けろ、押し続けろ、これはぼくたちの道だ)

(止まるな、この暴圧を鎮めるのはぼくたちの淋しさだ。言葉の渦の中に沈黙しろ)

劇団再生が、稽古中ずっと目を光らせて、そうぼくに声をかけ続けていた。
今も目の前でレコードが回っている。
森田童子が歌っている。

だからぼくはいつも地平線の向うで死にたいと思います
地平線の向うにはぼくと同じ淋しさがある
ぬけるように青い空は
限りないぼくたちの失敗の空です

森田童子が歌う。

ある日ぼくのコートの型がもう古いことを知った
ひとりで生きてきたことの淋しさに気づいた
長い髪をかきあげて ひげをはやした やさしい君は
ひとりぼっちで ひとごみを 歩いていたネ

森田童子が歌う。
33 1/3回転で歌う。
目の前でくるくると歌う。
中心に向かって、真ん中に向かって歌う。

『河上肇集』【近代日本思想大系18】

(575)

『世界教養全集2』

(531)

『世界教養全集27』

(534)

『笑う大天使(第1巻)』川原泉

『笑う大天使(第2巻)』川原泉

『空の食欲魔人』川原泉

『海底ハウス―田中和栄物語』登坂将司

(177)

『青木雄二のナニワ資本論』青木雄二

(199)

『僕が最後に言い残したかったこと』青木雄二

(204)

『死刑事件弁護人―永山則夫とともに』大谷恭子

(294)

並読していた幾冊かの本を一気に読み終えた。
全集が3巻、故青木雄二、身近な方登坂将司、永山則夫の一冊、それに漫画が三冊。
10月2日か、月の初めも初めでノルマの1/4をクリア。
なんてことないな、と思いつつ、次の全集に手を伸ばす。

少しばかり原稿に手を入れながら、
少しばかり書評の仕事をしながら、
少しばかりゲラに手を入れながら、

そういえば、何もかも言葉言葉だ。読んだり、書いたり、呼んだり、呼ばれたり、
君の名前以上の言葉があるかな、と、以前書いた。
それ以上の物語を創造できるか。
個人を形而上に引き上げ、普遍へと止揚できるか。
読んだり、書いたり、呼んだり、呼ばれたりしながら、そのことをずっと考えている。
個人を止揚していく果てを書くことができるだろうか。

森田童子は、個人を止揚することなく、普遍を手に入れた。
目の前でくるくる回るレコード盤。

それを見ながら、山積みの本と机に重ねた原稿を微笑ましく、思う。
なんだ、ただの言葉じゃねぇか。どいつもこいつも。

あと数時間後、日が変わり午前3時にテキストが送られてくる予定だ。
それを読んで、それを使って、午前3時5分には、一本の原稿が完成するだろう。
ちょちょいのちょいと完成するだろう。

目の前で森田童子がくるくる回る。
あと一曲で、レコード盤を裏返す。
目の前で森田童子がくるくる歌う。

『河上肇集』【近代日本思想大系18】

(575)
編集・解説/内田義彦

日本尊農論
時勢之変
日本独特の国家主義
貧乏物語
福田博士の「資本増殖の理法」を評す
獄中贅語
論文選
・都会に於ける人口集中の弊害を論じて田園生活鼓吹の必要に及ぶ
・崇神天皇の朝神宮皇居の別新たに起りし事実を持って国家統一の一大時期を劃するものなりと為すの私考
・琉球糸満の個人主義的家族
・西洋文明の分析的性質
・労働の苦痛に関する一考察
・唯物史観と因果関係
・マルクスの謂ゆる社会的意識形態について
・再びマルクスの社会的意識形態について
分配論 第三章

「マルクス主義と『求道』の精神」古田光

解説/内田義彦

年譜・参考文献

『世界教養全集2』

(531)
「随想録」M.モンテーニュ 関根秀雄訳
「箴言と省察」ラ・ロシュフコー 市原豊太 平岡昇共訳
「パンセ」B.パスカル 松浪信三郎訳
「覚書と随想」サント・ブーヴ 権守操一訳

『世界教養全集27』

(534)
「エリザベスとエセックス」L.ストレチー 片岡鉄平訳
「ディズレーリの生涯」A.モロワ 安東次男訳
「ジョゼフ・フーシェ」S.ツヴァイク 山下肇訳