●506●『世界教養全集30』

2009年10月6日 21:19:53

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電話が苦手だ。
電話をこちらからすることも、かけられることも。

昔はそうじゃなかった気がする。
「2時間35分」じゃないけど、何時間も電話をしていた。
真夜中に小さな声で電話線の向うの小ささと何時間も話をした。
電話が苦手になったのは何故だろう。いつ頃からだろう。
携帯電話は、意外に早く持っていた。15年前だと思う。ノキアの端末だった。

メールはたくさんする。自分でも驚くほどメールをする。
毎日、劇団員にたくさんのメールをするし、友人にもたくさんのメールをする。
たくさんのメールが届くし、それが性に合っている。
ただ電話が苦手だ。
そうは言っても電話をするし、かかってきたら出られる限り出るけれども、苦手だ。
いつからそう感じるようになったのか、どうしてそう感じるのか、
もちろん自分ではわかっている。
わかっているけれどもそれを修正しようと思わない。
現状で充分だし、とりたてて(相手のことはさておき自分に)不都合は、ない。

電話じゃないとアクセスできない方もたくさんいる。
ご年配の方が多い。そんな方とはもちろん電話でリンクする。
でも、電話が苦手だ。嫌いだ、と言い切ってもいい。

手紙が好きだ。
よく手紙を書いている。公演前には、たくさんの手紙を書くし、
今のような公演と公演の合間にも、手紙を書く。
何の用事があるわけじゃないけれども、前略こんにちは、いかがお過ごしお元気ですか、と
手紙を書く。

港の見える丘公園に上がる坂道の途中に江戸千代紙のお店『いせ辰』がある。
本店は、東京谷中。その店で売っている便箋を先日初めて買ってみた。
がなかなか具合がいい。和紙特有の紙面は、万年筆ではひっかかる。
だから筆で手紙を書いたりする。
万年筆に合うのは、神奈川近代文学館の便箋。

いせ辰の便箋も、文学館の便箋もそろそろなくなる。
また、あの坂道を登ろう。
10月か。近代文学館では、展示が変わったはずだ。
横浜美術館は19世紀のフランスをかけている。近いうち、一日横浜を歩くか。

そんな便箋を使って手紙を書いたり、
稽古場近くの100均の便箋に手紙を書いたり、
毎日毎日手紙を書いて、

稽古場で書いたものは、ゆーこちゃんに渡す。
ゆーこちゃんが裏書をして、投函してくれる。
家で書いたものは、なるべく自分で出すようにしているけれども、
稽古場に持っていって、やっぱりゆーこちゃんに渡したりする。

電話が苦手だ。手紙が好きだ。

昨日も一通手紙を書いた。
出せずにいる手紙。今日も一通手紙を書いた。また戻ってくるだろう手紙。

電話と手紙。
情報の伝達速度では、圧倒的な差がある。競争にもならない。
伝達の正確性はどうか。いい勝負かもしれない。
感情や言葉の情報における具体性ではどうか。それも言い勝負だろう。
相手の顔が見えないという点においては、同じだ。
電話と手紙。
情報を正確に伝達する、という手段においては、電話の方が勝っているのかもしれない。

けれども、
電話が苦手だ。手紙が好きだ。

見沢さんに手紙を書いてみた。

『世界教養全集30』

(506)

以前、ころすけ君に「高木さんは、見沢さんをどう思ってるんですか」と聞かれた。
その時は、わかってはいてもうまく答えられなかった。
下手なことを言って、誤解を与えたかもしれない。
今ならはっきりと答えることができるだろう。気恥ずかしくてあらためて言いはしないけど。

見沢さんを追い続けてきた数年だった。

見沢さんは、たくさんの手紙を遺している。刑務所からのそれがほとんどだ。
電話も好きだったようだ。
時間に関わらず、あちこちに電話をしていろんなことをまくしたてていた。

見沢さんは、46歳で死んだ。
見沢さんを追い続け、探し続けてきた数年だった。

「天皇ごっこ〜母と息子の囚人狂時代〜」を書いた。
「天皇ごっこ〜思想ちゃんと病ちゃんと〜」を書いた。
「天皇ごっこ〜雨の起源〜」を書いた。
「天皇ごっこ〜調律の帝国〜」を書いた。

「蒼白の馬上」を書こう。
「ライト・イズ・ライト」を書こう。
「七号病室」を書こう。
「愛情省」を書こう。
「日本を撃て」を書こう。

見沢さんが死んだのは、46歳。
その46年の生涯を追い続けてきた。追いついて、肩を組んでゆっくりと話そうと思ってきた。
見沢さんは、コスモス新人文学賞に獄中から入選している。
思いついて、ぼくも小説を送ってみた。
今日、コスモス文学新人賞の佳作入選のお知らせをいただいた。
見沢さんを追い続けてきた。

遺された未発表原稿を上演するか。
遺された手紙を上演するか。

手紙と電話。

電話線の向うにある小ささ。
距離の向うにある淋しさ。
電話線が切れていても、声は届くだろうか。
郵便屋さんがいなくても、手紙は届くだろうか。

46年の生涯を見沢さんは、何とつながろうとしたのか。

年齢なのか、死者と出会うことも多くなった。
見沢さんに手紙を書いてみた。
ある一つの決断をしようとしている自分に気付き、手紙を書いてみた。

『世界教養全集30』

(506)
「数と数学」D.E.スミス J.ギンスバーグ
「ろうそくの語る科学」M.ファラデー
「燈火の歴史」M.イリーン
「音の世界」W.H.ブラッグ
「自然と人間の闘い」 M.イリーン