空を見ている

2010年2月21日 02:19:41

写真

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一転晴れ渡った空をじっと見詰め続けている。
いつまでもいつまでも空を。
あの空を飛びたいのか、と聞くと、
そうじゃない、俺の空はここだ。
俺はいつでも自由に飛べる。
ここにじっとしたまま自由に飛べる、とコトバが答えた。

友人からいただいたドストエフスキーを抱いた。

もう一年間ずっと空に手を伸ばしてきた。
手を伸ばした空に何もつかむことができなくても
それでも空に手を伸ばし続けてきた。
何かをつかむことができないことを笑う者と決別しながら
空に。

空に。
空に。

行ったことのない遠い町から本が届いた。
扉を開くと一ページ目にトロツキーがやせた頬をぼくに見せた。
真夜中だ。
コトバがおなかをすかせてやってきた。
にゃあ、にゃあと鳴きながらやってきた。
入力するぼくのこの腕にとまって、ぼくを見上げている。
次のページをめくる。
反革命の銃弾にその華やかな生涯と未来を閉じた革命家ローザ・ルクセンブルグが
じっと中空を見詰めている。

空に手を伸ばし続けている。
今も空に手を伸ばし続けている。
なんだ、お前たちはまだそんなことをしているのか、
いつまでもそれじゃ世間が許さないぞ、と世間が言った。
ああ、まだやってんだ。それがどうした。
世間とはお前だろ。
世間が許さないんじゃない。お前が許さないんだろ。

空に手を伸ばし続けるこの手が、お前には眩しすぎるんだろ。
見てられないか?
そんなに無様か?

それは、お前の目がカメラのレンズのように死んじまったからだ。
一転澄み渡った明るい空にコトバの目がうつる。
じっと動かずにその空を見続けているコトバ。
カメラを向けても微動だにしない。
コトバ、

と声をかけると、
なんだ、空ってちっちゃいな、と答えた。
そうなんだ、空ってちっちゃいんだ。
その空に手を伸ばしてんだけどさ、なかなか手に入らないんだ。

反逆者。

そんな一言がうるさくつきまとう。
反逆の中にたたかい、
支配権力によって打ち砕かれ、
一人の個人として孤立し、
その思想は、機構や、社会や、歴史などによってではなく、

個人の生活の全責任においてまもられる。

「正統」によって迫害され、追及され、追い詰められ、
非業の最後をとげる。
栄光や栄達や成功とは無縁だ。

なるほど、反逆者か。
ぼくたちは、反逆者の生命になんらかの負債を持っているのではないか。

コトバが、餌をねだってにゃあにゃあ鳴く。
コトバと雪を見たり、空を見たり。

コトバ、今は真っ暗だ。
真っ暗くらのぽっかり空いた空。
コトバ、今は真っ暗だ。

夜明けが必ず来るとは思うなよ、とコトバが答えた。

わかってるさ、と答えた。