●1001●『さらば群青』『幸徳秋水集』【近代日本思想大系13】

2009年2月11日 23:15:08

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突然、登場人物になったりする。
稽古場からの帰り道、信号待ちの迷宮のときや、
眠りにおちる寸前の、暗闇のまやかしのときや、
服薬後の無性に喉が渇く、ざらついたときや、
そんなとき、

突然、今書いている登場人物になったりする。

3月の公演。『詞編・レプリカ少女譚』
そこには、何人もの登場人物が出てくる。
彼らの人生を一人ずつ創り上げ、描いている。

どこで生まれ、どこで育ち、どんな教育を受け、両親はどんな人であったか。
どんな学校で、どんな友達がいて、趣味や、好きな食べ物。
初恋はどんな景色であったか、初めての裏切り、初めての流離。
年を重ねていき、今を生きている登場人物。
彼ら一人ひとりの人生をぼくは、知っている。愛すべき人生。

その人生の全てを描くことはできない。
不可能なのではなく、演劇という作品の中にその全人生は無粋であり、
言い切るとすれば、無駄で、不必要。
それでも、一本の脚本を書くときには、彼らの全人生を、知る。

彼らが育ってきた今、
彼らの眼差し一つが全人生を表現し、
全人生を背負ったからこそ言う、一言がある。
それを、ぼくは、書く。

演劇のなんたるかを未だ知ることのできない自分の唯一の抵抗。

たった数文字の一言を言いたくて、万年筆で削りだす。
たった数文字を書くために、すでに3万字も費やした。
たった一行を書きたくて、原稿用紙100枚以上も書き継いでいる。

その一言を、書いた。
その一行を、書いた。

エピローグだ。
登場人物がこれからどこに行くのか、それは知らない。
彼らの人生だ。劇作家が干渉していいはずがない。
彼らがこれからどんな悪事を働こうとも、どんな善行を施そうと知ったこっちゃない。

その一言を書いた。
3万字以上を費やして、たった一行を書いた。

『さらば群青』野村秋介(581)
『幸徳秋水集』【近代日本思想大系13】編集・解説/飛鳥井雅道(420)

今月は、読書のペースが遅い。
読みながら、それがわかっている。
なんだか、じっくりと楽しみながら読んでいる。
今月のノルマが心配になってきた。
脚本が仕上がれば、もう少し読む時間も取れるだろう。


『幸徳秋水集』

兆民先生
廿世紀之怪物帝国主義
長広舌
社会主義論説集
獄中手記
補注

「堺君と幸徳秋水を語る」小泉策太郎

解説/飛鳥井雅道

年譜・参考文献