『豊饒なる仮面 三島由紀夫』『永遠の0』『デルクイ 01』『新編 啄木歌集』『ロイと鏡子』

2011年3月8日 01:05:36



あっ、と思ったら案の定の発熱。
もー、忙しいのに、と思ったところで熱がでるもんはしょうがない。
とはいえ、発熱の疲労は好きではない。
べったりと油みたいに体のやや内側に貼りつく粘着質な疲労。

それはそうと、眼鏡が合わなくなってきた。
先日新調した読書用眼鏡はなかなか具合がいい。
普段の近視用の奴が全く合わなくなってきた。
好きな色のレンズだ。新しく作るしかないか。

今年になってあちこちと舞台を見ている。
勉強と言うわけでもないし、義理で見ているわけでもない。
能も狂言も歌舞伎も小劇場も商業も、見ればそれなりに楽しめる。
そんなものを見ながら、あっ、と思いついたりすることもある。

そうだ、昨日電車の中で出来上がった一本の『言葉の演劇』を書いてみるか。
そう思い、資料を机の上に並べてみる。必要な本は数冊だ。
どんな舞台になるか。画はできている。一人舞台にしてみるか、それとも
男と女の二人の破滅を描くか。

『言葉の演劇』
モチーフは死んでしまった三人の『言葉たち』
電車の中で吐き気を堪え、酷くなる頭痛に大きく息を吸いながら生まれた一本の作品。
時間がほしい。集中してじっくりと腰を据えて書くことができる時間がほしい。

先日の真夜中、高田馬場。鈴木さんと打ち合わせをした帰り道、
13間道路をアクセル全開。歌いながら、真夜中を走った。
頭痛と体内の鈍痛が少し引いていく気がしたが、錯覚だったか。
ヘーゲル弁証法的な治療の可能性を探った。

ハイデガーは、死ぬことを
たしかにダーザインにかかわっているが、本来はだれにも属するのものでもない出来事、と
『存在と時間』の中で語っている。なるほど、確かにそうだ。
皆が皆、或いは世界自身がそこに立てば、死ぬことに意味はなくなる。同時に、言葉にも意味がなくなる。

梵天勧請か、しかし、それは、本当に可能か。
それに挑むことが或いは芸術家の使命かもしれない、と思うこともある。
理解を表現することが高度な社会性を持ったある種の本能だとすれば、
ぼくは、それを、断固、拒否する。拒否して、ただ、『あなた』と『死ぬ』

それにしても、『あなた』という定義もまた難しい。
そして、『死ぬ』という定義も、ハイデガーを持ち出すまでもなく、
『言葉』が介在する限り、真の『死ぬ』という定義は、不可能なのかもしれない。
と、考えるまでもなく、だが、時間のあまりの残酷さは、不安や恐怖よりも寂しさを連れる。

いつか、『八文字の演劇』を書くだろう。
いつか、『ぼく自身が言葉である』演劇を創るだろう。
いつか、『稽古のない稽古場』という方法を作るだろう。
いつか、『演者が常に観客』となる劇場を構築するだろう。

そして、ぼくは登ることも降りることも自在なこの場所で、
寂しさに囲まれて、退屈に囲まれて、本を読む。『あなた』に向かって本を読む。
読めば読むほど寂しくなる。読書をあなたにすすめる情熱はその寂しさによって失われた。
読まない人は読まない。それが事実だ。読む人は読む。それが事実だ。

電池を抜きっぱなしにしてある時計が、進むことはない。
電池を抜いた瞬間から止まりっぱなしだ。その事実に不思議を感じながら
それを誰かと議論することの不可能に思い当たる。現実に存在する誰かを思い浮かべ、
そのことを語ってみる、という思考実験をするも、相手の反応が手に取るようにわかる。

つまらない。退屈だ。
とはいえ、無理矢理にそんなことを俎の上に乗せたところで、世界は相手にできない。
くそっ、熱のやつめ。
ショック療法的に脚本を書き始めてみるか。

上演のあてのない脚本。『言葉の演劇』のための脚本。
『あなた』に遺すためだけの脚本。そうだ。上演と言う約束があるから、
脚本の純度が落ちる。それ以上の『長いお別れ』的目的が脚本を完成させるかもしれない。
タイトルは、そうだな、『おわかれ致します』というのは、どうか。

或いは、『女は、やっぱり、駄目なものなのね』
『革命』と表題してみてもいいが、それじゃあんまり直接的に過ぎる。
演劇を『観る』と言うが、演劇を『言葉』する、とはやっぱり言わない。
それにはそれなりの理由があるのだろう。ぼくにはわからないが。

多分、『あなた』の言うほうが正しい。
だって、『あなた』は正直だ。自分にも誰かにも。だから、大切なものがある。
それが正しい。正直だから大切なものが大切なんだ。
じゃあぼくは嘘つきか。多分、そうなのだろう。

約束のない脚本か。なかなか魅力的じゃないか。
ただ遺すためだけの脚本。個人的な脚本。なるほど、書けそうだ。
その一本の脚本がただ破滅だけをもたらすものだとしても、書く意味はあるだろう。
『長いお別れ』的な場所に、ハイデガーの語る真の意味を表現できるだろう。

『豊饒なる仮面 三島由紀夫』井上隆史
『永遠の0』百田尚樹
『デルクイ 01』『デルクイ』編集部
『新編 啄木歌集』石川啄木
『ロイと鏡子』湯浅あつ子